ダイヤモンドを購入するなら知っておきたい、キンバリープロセスに関する真実

ダイヤモンドをいつか購入するなら知っておきたい、キンバリープロセスに関する真実

2015年7月1日 株式会社ピースダイヤモンド代表取締役 村上千恵

世界の裏側では未だダイヤモンドが紛争の資金源となっている国や地域があります。
その一方、「キンバリープロセスがあるから、そんなことはもう起こっていない」「最近は業界も厳しくなっているから大丈夫」との声も聞きます。
お客様が期せず紛争やテロ等の犯罪に加担してしまうことを防ぐため、私が数年に渡り調べてきた、キンバリープロセスの真実をお話しさせて頂きます。

Rough Diamonds from Africaアフリカで採掘されたダイヤモンド原石(public domain)

キンバリープロセス認証制度とは?

紛争の資金源となるダイヤモンド原石の流通を抑止するため、2003年に設立された国際的な認証制度のことです。全てのダイヤモンド原石は、輸出入時にキンバリープロセスに認証された証明書を有することが義務づけられています。キンバリープロセス公式ウェブサイトはこちら

紛争ダイヤモンドとは?

紛争の資金源となるダイヤモンドのこと。別名、ブラッド・ダイヤモンド、血塗られたダイヤモンドと言われることもある。

【目次】

1. ダイヤモンドが紛争の資金源になっているアフリカのダイヤモンド産出国

2. キンバリープロセスの主要な課題
2-1. 紛争ダイヤモンドの定義
2-1-1.  「反政府軍」による武力活動に限定されている
2-1-2. 武力活動の目的が「合法な政府の転覆」に限定されている
2-1-3. 「ダイヤモンド原石」に限定されている2-2. キンバリープロセスの運用
2-2-1. ダイヤモンド取扱国で未加盟の国の存在
2-2-2. リベリアの例
2-2-3. 密輸
2-2-4. 議長の1年毎の輪番制
2-2-5. 目的の認識のずれ

3. キンバリープロセスの目的

4. まとめ

1. ダイヤモンドが紛争の資金源になっているアフリカのダイヤモンド産出国

2015年6月現在、ダイヤモンド等の鉱物を資金源とする紛争や内戦が起こっているのは、中央アフリカ共和国とコンゴ民主共和国です。

conflict africa
内戦の時期   禁輸措置(輸出入の禁止)
中央アフリカ共和国 2012年12月~現在 2013年12月~現在
コンゴ民主共和国  1996年~断続的に現在まで 無し

 キンバリープロセスは2013年4月18日に中央アフリカ共和国産ダイヤモンドが武装勢力の資金源となっていることを否定できない[i]とし、同年12月国連安全保障理事会が禁輸措置を発表しました。キンバリープロセスによると、それ以降の公式輸出額はゼロですが、ロイターやブルームバーグ等の報道機関は、「禁輸措置以降、中央アフリカ共和国から外国に密輸されたダイヤモンドは最低でも14万カラット、金額にすると2,400万米ドル(日本円換算額約28億円)以上にのぼる」と報道[ii]しています。

一方、キンバリープロセスは、1990年代から紛争が断続的に続いているコンゴ民主共和国産のダイヤモンドを認証禁止にしていません[iii]。コンゴ民主共和国の東部は現在も武装勢力が力を持っており、ダイヤモンドをはじめとする鉱山の支配をめぐり争っています[iv]。これはつまり、コンゴの武装勢力の支配下で産出されたダイヤモンドは公式に外国に輸出され、通常のバリューチェーンに何ら問題のないダイヤモンドとして流通していることを示しています。

なぜこんなことが起こっているのでしょう?
この謎を解き明かすため、キンバリープロセスの主要な課題を整理したいと思います。 

2.キンバリープロセスの主要な課題

2-1.紛争ダイヤモンドの定義

キンバリープロセスでは、紛争ダイヤモンドを以下のように定義しています。

“CONFLICT DAIAMONDS means rough diamonds used by rebel movements or their allies to finance conflict aimed at undermining legitimate governments.[v]

日本語に訳すと、「紛争ダイヤモンドは、合法な政府を転覆させることを目的とする、反政府軍による紛争の資金源として用いられるダイヤモンド原石を意味する」(ピースダイヤモンド訳)という意味になります。

この定義自体の課題を、一つずつ見ていきましょう。

2-1-1. 「反政府軍」による武力活動に限定されている

上の定義では、ダイヤモンドが「反政府軍による紛争の資金源」になる場合のみ、紛争ダイヤモンドであるという意味になります。つまり、政府軍が応戦する資金源、政府軍がダイヤモンド鉱山を支配し殺人・暴力を行い採掘させたダイヤモンドは、紛争ダイヤモンドではないという解釈です。

その例が、ジンバブエの主要ダイヤモンド鉱山であるマランゲ鉱山です。ジンバブエは実質的軍事政権の国で、軍が鉱山を制圧しています。国際人権団体であるヒューマン・ライツ・ウォッチは、ジンバブエ軍や警察が鉱山周辺の住民を殺人・拷問・レイプし、大人・子どもを鉱山で強制労働させているとのレポートを発表しました[vi]

しかし、この件は紛争ダイヤモンドの定義にあてはまっていないため、2009年の一時的な禁輸措置は解除され、マランゲ鉱山からのダイヤモンドは公式にキンバリープロセス認証を受け、外国の市場に流通しています。マランゲ鉱山は、毎年最大20億ドル相当の原石を採掘できるとされています[vii]
Zimbabwe President Mugabeジンバブエのムガベ
大統領(public domain)

また、紛争や内戦が頻発するアフリカ諸国では、反政府軍と政府軍が入れ替わることも珍しくありません。映画「ブラッド・ダイヤモンド」(ワーナーブラザーズ配給)の舞台となったシエラレオネ内戦の首謀者チャールズ・テイラー(リベリア人)は、もともと反政府軍を率い、シエラレオネやリベリアのダイヤモンド鉱山を制圧していました。

テイラーが戦いに勝ちリベリアの大統領に就任すると、テイラーが率いていた旧反政府軍は政府軍に。テイラー大統領就任後も内戦は終息せず、退陣するまで内戦は続きました。大統領在任中もテイラーの資金源はダイヤモンドだったという報道もあります[viii]。その後、チャールズ・テイラーは国際刑事裁判所で国際戦犯として裁判にかけられ、2012年に有罪判決が下されています。

Charles Taylorチャールズ・テイラー (Public Domain)

このように、政府軍や反政府軍が入れ替わることがありえる状況下では、政府軍もダイヤモンドを資金源としていれば、紛争ダイヤモンドと定義すべきではないでしょうか。

2-1-2. 武力活動の目的が「合法な政府の転覆」に限定されている

まず、合法な政府とは、その国の法律で定められた通りに成立し、他国や国際機関に政府として承認されている、つまり外交関係を結んでいる政府のことだと一般的に考えられています。

上の紛争ダイヤモンドの定義では、「合法な政府を転覆させる目的」でダイヤモンドを資金源とする反政府軍が紛争・内戦を起こした場合のみが紛争ダイヤモンドであるという意味です。 

つまり、反政府軍対反政府軍、武装勢力対武装勢力のような戦いでダイヤモンドが資金源とされていても、それは紛争ダイヤモンドではないという解釈になります。

例えば、コンゴ民主共和国の東部には34以上の武装勢力が存在しています(2014年10月現在)[ix]。ここにコンゴ国軍が加わり、勢力争いや鉱山の支配権をめぐり戦いが散発し、一般市民が殺人・拷問・レイプの犠牲になっています。しかし同国に関し、キンバリープロセスが特段の注意を払っている様子は見受けられません。これは、コンゴの状況が紛争ダイヤモンドの定義を満たしていないからだと考えられます。

【コンゴ民主共和国東部の武装勢力(2014年秋の勢力図)】

コンゴ民主共和国武装勢力

Christoph Vogel, “Mapping armed groups in eastern Congo” (Creative Commons)を基にピースダイヤモンド作成

2-1-3. 「ダイヤモンド原石」に限定されている

上の定義で、紛争ダイヤモンドはダイヤモンド「原石」とされています。ダイヤモンドは採掘された後、カット・研磨されジュエリーに留められますが、この定義ではカット・研磨済のダイヤモンドが紛争の資金源(武器購入等の資金源)となっても、それは紛争ダイヤモンドではないという解釈になります。

例えば、イスラエルは世界三大ダイヤモンドカッティングセンターとして知られており、多くの原石がこの国でカット・研磨され、第三国に輸出されています。

ダイヤモンド業界は多額の税を政府に納め、イスラエル政府はその一部を軍事費に使い、それを資金源としてパレスチナを攻撃していると言えます。一説には、年間約1,000億円がイスラエルのダイヤモンド業界から軍事費に流れているという調査結果もあります[xi]

しかし、イスラエルではダイヤモンド原石ではなく、カット・研磨したダイヤモンドを販売しています。つまり、紛争ダイヤモンドの定義にあてはまらないため、キンバリープロセスがイスラエルの動向を注視する様子は見られません。

このような状況に抗議し、海外には、イスラエルでカット・研磨されたダイヤモンドをボイコットする活動をしている人々がいます。

2-2. キンバリープロセスの運用

キンバリープロセスは、加盟国により自主的に運用されています。
また、規定に違反した場合でも、強制力や罰則がありません。

ダイヤモンド産出国はアフリカが多いため、キンバリープロセスには多くのアフリカ諸国が加盟しています。アフリカの国には、定めたルールを周知徹底しそれを運用する力がまだ十分に育っていないケースが多いため、実際に効果のある運用がされているのか疑問です。

2-2-1. ダイヤモンド取扱国で未加盟の国の存在

制度を運用ができるかどうか議論する前に、加盟国について触れておく必要があります。

ダイヤモンド原石だけでなく、ダイヤモンドを加工したり輸出入する可能性がある国の多くがキンバリープロセスに加盟していますが、ダイヤモンドを扱うすべての国が加盟しているわけではありません。

例えば、ダイヤモンドを採掘しているとされるガボンや赤道ギニアは加盟していません。つまり、これらの国はキンバリープロセスの規制を全く受けていないのです。

2-2-2. リベリアの例

キンバリープロセスが実際のところ効果的に運用されているのか、筆者が2014年5月にリベリアを訪問した際、リベリアにおけるキンバリープロセスの責任者である採掘担当省のドーバー副大臣や、地方で面会した採掘担当官に聞いてみました。

Liberiaドーバー副大臣(右端)と筆者(中央)

副大臣によると、「キンバリープロセスをきちんと運用することは難しい」とのこと。
主な理由として、以下が挙がりました。

a)(キンバリープロセスには加盟国がダイヤモンド産出量・輸出量等の統計を毎年提出することになっているが)この国では統計をきちんと取ることができない。県→州→政府にあがってくる数値が『推定』でしかないので、推定数値を合計した数値を提出するしかない、

b)違法採掘者が特に国境付近に多く存在するが、取り締まる能力がない、

c)国境警備も十分にできないので、近隣諸国からまたは近隣諸国への密輸を取り締まることができない。

また、グランドケープマウント州の採掘担当官は「違法採掘を取り締まる担当官は州に1~2名しか配置されていない。取り締まりにはバイクを使うが、道がない奥地には行くのも大変で、ガソリン代も少額しか支給されていない。この状態で州全体を取り締まるのは無理だ」と言っていました。

Mining Agent Sign Mining Agent
グランドケープマウント州の採掘担当官事務所の看板  インタビューに答えるグランドケープマウント州の採掘担当官

 このような状況は、リベリアに限った話ではなく、途上国ではよく聞く話です。
自主的な運用ができるようになるための、各国の能力強化も求められています。

2-2-3.密輸

ダイヤモンドは密輸されやすい性質を持っています。

・小さい
・軽い
・腐らない
・価値がある
・金属探知機にひっかからない

一方、ダイヤモンドの輸出にかける関税は国によって異なっています。

高い関税を嫌がる人々が、関税の低い近隣国に密輸し、その国でキンバリープロセス認証を受け、ダイヤモンドを国外に正式に輸出する=正式なサプライチェーンに紛れ込むということが起こっています。

例えば、コンゴ共和国(コンゴ民主共和国とは別の国です)には、ダイヤモンド鉱山が数える程しかありませんが、相当な量(金額)のダイヤモンドを毎年輸出しています。つまり、他国から密輸種入したダイヤモンドをキンバリープロセス認証し、海外に正式ルートで輸出しているのです。

2-2-4.議長の1年毎の輪番制

キンバリープロセスの議長及び副議長は、加盟国が1年の任期で輪番制になっています。
これには短所・長所のどちらも考えられます。

長所 短所
・任期が1年と短いため、議長(国)が独裁することはできない ・任期が1年と短いため、長期的な視野で課題に取り組みづらい。

・任期が1年と短いため、事なかれ主義になりやすい(敢えて新しいこと・改革をするより、何も起こらず1年を終える方がよいという考えに至りやすい)

現状のキンバリープロセスには、短所の部分が色濃くでてしまっているようです。主に欧米の団体・機関から様々な課題を指摘されても、それに対して何かしようという動きはほとんど見られません。それどころか、ダイヤモンド等が資金源となり内戦状態にある中央アフリカ共和国の禁輸措置を解禁しようとしています。

2-2-5.目的の認識のずれ

「キンバリープロセスは、そもそも何のためにあるのか?」
加盟国の中でも認識にずれがあるようです。 

・欧米、日本等、ダイヤモンド消費国:紛争ダイヤモンド原石の抑制のため

・アフリカのダイヤモンド産出国:「紛争ダイヤモンド原石の抑制」は建前で、本音はダイヤモンドから税金を徴収するため[xii] →つまり、税金を徴収できるなら、密輸入されたダイヤモンドをキンバリープロセス認証することもいとわない国があるということです。

3. キンバリープロセスの目的

これまでキンバリープロセスに関する多くの課題を見てきました。しかし、キンバリープロセスに関する一番の問題は上に述べたことではないと考えています。

キンバリープロセスが抱える一番の問題は、
「児童労働、強制労働、債務労働、暴力、レイプ、殺人等の人権問題や採掘による環境破壊には一切関係がない」ことです。

キンバリープロセスのそもそもの目的は、紛争ダイヤモンド原石の抑制です。つまり、そのダイヤモンドが児童労働や強制労働によって採掘またはカットされたものであっても、反政府軍が正当な政府を転覆させる紛争の資金源になっていなければ、キンバリープロセス認証を受け、公式ルートで輸出することができるのです。

4. まとめ

お客様にとって最も由々しき問題は、紛争の資金源・人権侵害・環境破壊を経て採掘またはカットされたダイヤモンドと、そうではないダイヤモンドが混ざり合って流通している点だと思います。これはダイヤモンドの複雑なバリューチェーン(鉱山からお客様に届くまでの経路)に問題があります。バリューチェーンについては、別の機会にお話したいと思います。

 

 【参考文献】

[i] Kimberley Process, “CAR Administration Decision May 2013” http://www.kimberleyprocess.com/en/2013-administrative-decision-car (2015年6月15日閲覧)

[ii]  Daniel Flynn, “Gold, diamonds fuelling conflict in Central African Republic: U.N. panel,” Reuter, 2014年11月5日 http://www.reuters.com/article/2014/11/05/us-centralafrica-un-panel-idUSKBN0IO21420141105 (2015年6月10日閲覧)及び
Ilya Gridneff, “Embargo May Be Lifted on Gem Trade in Central African Republic,” Bloomberg Business, 2015年3月26日,
http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-03-25/gem-trade-in-central-african-republic-may-have-suspension-lifted (2015年6月10日閲覧)

[iii] Kimberley Process, “Democratic Republic of Congo” http://www.kimberleyprocess.com/en/democratic-republic-congo (2015年6月15日閲覧)

[iv] Tom Miles, “Congo rebels may have committed crimes against humanity: U.N.” 2015年5月13日, ロイター通信, http://www.reuters.com/article/2015/05/13/us-congodemocratic-un-idUSKBN0NY16A20150513 (2015年6月16日閲覧)

[v] Kimberley Process, “KPCS Core Document” 2002年11月、http://www.kimberleyprocess.com/en/kpcs-core-document (2015年6月15日閲覧)

[vi] Human Rights Watch, 2009 , “Diamonds in the Rough” http://www.hrw.org/sites/default/files/reports/zimbabwe0609web.pdf (2015年6月15日閲覧)

[vii] ラビ・ソマイヤ, 「『血のダイヤ』取引解禁でムガベ高笑い」, 2010年8月19日, Newsweek, http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2010/08/post-1536.php (2015年6月15日閲覧)

[viii] セバスチャン・マラビー, 「破綻国家問題に対処する国際機関の設立を」2002年10月号, フォーリン・アフェアーズ・リポート, http://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/200210/Mallaby.htm (2015年6月15日閲覧)

[ix] Christoph Vogel, “Mapping armed groups in eastern Congo” 2014年10月,    https://ethuin.files.wordpress.com/2014/11/ga-mapping-iv-3.jpg (2015年6月15日閲覧)

[x]  JETRO, 「イスラエル」2014, https://www.jetro.go.jp/world/gtir/2014/pdf/2014-il.pdf

[xi] Israel’s “Blood Diamonds” Boost Jeweller Profits as Gaza Bleeds, Global Research, Centre for Globalization, http://www.globalresearch.ca/israels-blood-diamonds-boost-jeweller-profits-as-gaza-bleeds/5390583 

[xii] 2007年NHKドキュメンタリー「ダイヤモンド・ロード(後)シエラレオネ・血塗られたダイヤモンド」より